▼鎮魂行の最後のフレーズは、「……理想境建設に邁進す」です。私が大学の少林寺拳法部のとき、となりで鎮魂行を見ていた他の運動部の友人から、「少林寺拳法って大きなことを言うんだな」と冷やかされ、大きなことを口にしていることを気恥ずかしく思ったこともありました。たしかに、現実の社会を考えれば、理想境の実現なんて遠い夢物語のようにも思えます。しかし、そもそも教典のことばはどれも、他人に聞かせるためではなく、すべて自分に言い聞かせるためのものです。ましてや、理想境にはほど遠い悲惨な出来事が世界中で止むことのない今だからこそ、その解消と理想社会の実現を意識して口にすることは、とても大切なことだと思えます。▼その「理想境建設に邁進す」は「信条」の中の一節です。「信条」には4つの条項がありますが、他の3つは「……報恩の誠をつくさんことを期す」 「……世界の平和と福祉に貢献せんことを期す」「……平和を守る真の勇者たることを期す」とその終わりはどれも「期す」、つまり〝誓う〟とか〝約束する〟となっています。最後の「邁進す」と合わせて、強い決意表明の内容になっている点が「信条」の特徴です。開祖ご存命のときの講習会資料には、「信条の唱和は、発声に力を入れて行わせるように」とその要点が記されています。さらに言えば、「信条」を唱える前には、しばらく瞑想を行って、頭の中はリラックス状態になっています。打棒の音を合図に気合を発して立ち上がりますが、頭はまだ雑念のないスッキリした状態です。そこで「信条」の4つを自分に言い聞かせるのです。しかも、この場面だけは主座と拳士一同とが向き合います。同志として互いに誓い合うというスタイルをとっているのです。▼自分を良くすることであれ、身近な現場や社会を良くすることであれ、現実と向き合っていくのは結構しんどいことですから、いやになったり、挫けたりすることもあるでしょう。だからこそ、理想や願いをしっかり自分の中に掲げておくことは、歩みを止めないための心の支えになります。また、力がいるからこそ「(同志と)協力一致して」なのです。金剛禅運動にたずさわる私たちにとって、「理想境建設に邁進す」は、日々の実践がどこへ向かっているのかを確認する、いわば北極星のようなものです。その昔、遠洋を航海する船乗りたちが、夜空を見上げて北の方角を確認したように、いつも高いところで輝いて、道に迷いそうになったとき、進むべき方角を示してくれるのです。北極星を見失わないように、挫けそうになっても、それでも「理想境建設に邁進す」です。今日はひと休みしても、また明日から「理想境建設に邁進す」です。▼さて、「理想境建設に邁進す」は自分にとっての北極星になっているでしょうか。「理想境建設に邁進す」は、鎮魂行を締めくくる〝極め台詞”であり、そして、金剛禅運動にとっての究極のスローガンでもあります。今日もしっかり唱和しましょう。 (執筆 坂下 充)